桜の花も満開となり世の中は新しい季節を迎えている。
それは私達も例外ではなく、私も彼も無事に最高学年へと進級した。偶然にもお互いの始業式が同じ日であったことからその日の午後、ランチも兼ねてデートの約束をしていた。待ち合わせ場所のファミレスに遅れて来た彼を見ると相変わらずだな、と少しだけ笑みが零れる。注文を済ませるや否や謝る彼にまた成長したものね、とさえ感じてしまった。これは本人には口が裂けても言えないけれど。

「わりぃな、遅れて」
「ううん、そんな待ってないからいいわよ。それより今日部活よかったの?」
「あー、毎年この日だけはねぇんだよ。始業式早々、部活なんて面倒だしな」
「もう!部長がそんなんでどうするのよー」
「んなこと言ったってよー。まだ自分が部長だって実感があんましねぇからさー」
「何言ってるのよ。部長になってからもう半年くらい経つじゃない」
「まぁそうなんだけど。……何かこうしっくりこないってゆーか」
「あぁ、そういうことね。まぁ私も三年になった、って気はしないわね」
「だろー?……つーか、タチバナさんは進路どーすんの?」

切原くんの唐突な問い。そこへ頼んだ料理が運ばれて来て話は一旦中断される。お店の人が席から離れるのを見て私は少し悩んでから彼の問いに答えた。

「唐突な質問ね。……まだざっくりとしか考えてなかったからここ!って進路はないけど」
「ふーん、やっぱそんなもんか」
「どういう意味よ?」
「いやさ、今日のHRでさ進路希望調査もらったからアンタはどうなのか聞いてみようと思ってな」
「切原くんは上にそのまま上がるんでしょ?」
「一応そのつもり。先輩達もいるからな」
「テニスやる環境も整ってるものね」
「あぁ。とゆーかさ、タチバナさん高校行ってもテニス続けるんだろー?」
「そのつもりだけど……?」
「じゃあ高校でも部活やんの?」
「……んー、どうしようかな。私団体行動って苦手なんだもん」
「あー、何となくわかるわ」
「何よ、それ」
「だってタチバナさん男相手でもすぐに啖呵切るのに女相手じゃ余計だろうなーって思って」
「悪かったわね、喧嘩っ早い女で」
「いいや、いいんじゃね?正義感強いってことだろ?俺はそーゆー子好きだぜ?」
「……何でさらっとそーゆー恥ずかしいこと言えるかなぁ?」
「俺は思ったことを言ったまでだけど?」
「もうっ!」

真っ赤になった私にからかうような意地悪い笑みを浮かべた彼。いつものことと言えばそうなのだが、やられっぱなしは悔しい。そういう性分なのだ。子供っぽいことは承知の上で傍にあったサラダを頬張る。私を見て彼は若干苦笑しているが気にしない。だって悔しいもの。そんな私を余所に彼はまた言葉を発する。

「なぁ、タチバナさん」
「……何よ?」
「アンタ、立海受ける気ねぇの?」
「どうしたのよ、いきなり……」
「いきなりなんかじゃねぇよ。去年――秋の大会が終わった辺りから考えてた。高校上がったら練習量も今以上になるだろうし。何てったってあの化け物のような先輩達がいるんだぜ?だから今以上に会える時間もなくなるんだろうな、って思ったからさ」
「……切原くん」

彼の真剣な眼差しに私は言葉が出なかった。だって……彼が――あの切原くんがここまで私との未来を考えていてくれたなんて思っていなかったんだもの。正直驚いた。高鳴った心臓がうるさくて言葉を探そうにも頭が上手く働かない。相当困った顔をしていたのか、彼はふっと笑いながら「ま、俺が考えてたことだからあんま気にしなくていいぜー」なんて言う。この半年で彼は大人に近付いた、それは今の発言からもわかる。それなのに……ねぇ、そんな寂しそうな瞳をしないでよ。私は小さく深呼吸をして彼に話しかける。

「ねぇ、切原くん……」
「ん?」
「私ね、都立高校受けようと思ってるの」
「……そっか」
「そりゃテニスを続けることを考えたら立海も魅力的だけどやっぱり親にそこまでお金出してもらうのは忍びないから。……確かに今より会えなくなるのは寂しいけど。テニスは切原くんが教えてくれるでしょ?」
「!……ったく、タチバナさんには適わねぇな。じゃあ、テニスの代わりに俺は英語でも教えてもらおうか?」
「切原くん、本当に英語出来ないんだねー」
「悪かったな。……なぁ、杏」
「な、なに?」
「好き」
「バカっ!!どうしてこんな所で……!」
「いいじゃん。……で、アンタはどう思ってんの?」
「……す、きに決まってるじゃない」
「何?聞こえない」
「……〜〜っ、好きに決まってるわよ」
「サンキュー」
「もうっ!!……今日は切原くんの奢りね!」
「はぁ?何でだよ!」
「だって遅刻したじゃない」
「だぁー!俺今月マジで金欠だってゆーのに」
「デザートも頼もうかな?」
「鬼だ、アンタ」
「何か言った?」
「いーや、何も」
「そう。……すみませーん!」
「あー!ちょっ、マジでデザートは勘弁っ!!」
EACH WAY

'09/04