授業中、眠いなぁ……なんて思いながら小さく欠伸をしていたら背中をトントンと突かれる。後ろを振り向けばいつもの少しにやりとした顔で仁王が端の折られた紙を私に回したきた。
「なに、これ」
「席替えのあみだじゃ」
「ふーん。仁王はどこに名前書いたの?」
「ここじゃ」
私の質問に素直に答えてくれた仁王は自分の名前を書いた場所を指で軽く叩く。相変わらず綺麗なんだか汚いんだかよくわからない微妙な字体で書いてある『仁王』という文字の両脇を見てみればそこは誰の名前もなかった。だから私は仁王の右隣に自分の名前を書き加える。
「何じゃお前さんまた俺の近くにでもなりたいんか?」
「あのねー、隣に名前書いたからって近くの席になるかなんてわからないじゃない。あみだなんだから」
「冗談じゃよ」
「もう!……まぁ、でも次も仁王の近くがいいなぁ」
「……なして?」
「だって仁王ってば面白いんだもん。一緒にいて飽きないんだよねー」
「普通そこは『だって仁王が好きだから』とか言うところじゃろ?」
「冗談は顔だけにしておいて」
「ふぅ……相変わらず手厳しい奴じゃのう、お前さんは」
「そりゃどーも」
わざとらしく肩をすくめる彼が何だか可笑しくて私は思わずクスっと笑ってしまった。
『――じゃあ、次の問題を……そうだな、仁王。お前、前に出て解いてみろ』
その教師の一言に面倒臭そうな顔をした仁王だったが、立ち上がり黒板へと向かう。その途中、私の席の横を通った瞬間「次の席も近くじゃったらええのう」なんて言葉を残していった。そんな仁王に不覚にも心臓が高鳴ったことは一生の秘密だ。
席替え
(月に一度のお楽しみ)