未来はあなたの手に握られてるから


「なぁ、棗。アンタは大きくなったら何になりたいん?」

蜜柑は棗に向かって微笑みながら言った。

「……別に何でもいい」
「何やねん、それ」
「お前みたいに呑気なこと考えてる余裕なんて俺にはねぇんだよ」
「……そやったな、ごめん」
「……」

少し強めに言った棗の言葉に蜜柑は、はっとして押し黙ってしまった。
そんな様子の彼女を見た棗は読んでいた雑誌から目を離し言った。

「そんくらいで落ち込むんじゃねぇよ、バカ」
「お、落ち込んでなんかあらへん!」
「お前みたいなぶすの考えてることなんかお見通しなんだよ」
「なんやと〜、このセクハラエロギツネっ!!」
「……そんな口聞ける立場なのか?お前は」
「ほんまにムカつく奴やな……」

蜜柑は横で悪態をついてくる――いや、からかってくる棗に 腹を立てたのかそっぽを向く。

「もうアンタとは口聞いてやらへんっ!」
「そうかよ……」

そう棗は言うとまた雑誌に目を移した。



『……』

あれから何分が経ったのだろうか。
蜜柑も棗も一向にしゃべり出す気配がない。

『なぁ、棗。アンタは大きくなったら何になりたいん?』

バカや、ウチは。
何で気が付かんとこのこと口に出してしもうたんやろ。
棗が今どんな目に遭って、どんな境遇におるんか全然分かってなかった。
こんなんで棗の『彼女』やなんて……。

「……グスっ……ひっく」

突如、沈黙を破る蜜柑の泣き声が聞こえてきた。

「……なに泣いてんだよ」
「な、泣いてなんか……」
「強がんな」
「……ぅ……グスっ……」
「はぁ……」

棗は一つ溜息を付くと席を立ち、蜜柑を後ろからぎゅっと抱きしめた。

「な、棗っ?!……なに、すん「いいから、黙れ」

棗に遮られ蜜柑は彼に問いたいことをぐっと押し込んだ。

「……さっきは悪かった」
「……え」
「お前の気持ち気付けなくて、悪かった」
「……なつめ、ほんまにそう思ってくれとる?」
「……ああ」
「ウチもごめんな。……棗のこと気が付けなくて」
「……」
「でもウチな、ほんまに棗のこと好きやから。だからっ!」

蜜柑は泣くのを精一杯我慢しながら震える声を絞るように言葉を紡いだ。

「……蜜柑、愛してる」
「!!……ありがと、棗」

二人の影がそっと重なった瞬間、遠くの方で鐘が鳴る。



「                    」
「なつめ……」



貴方の夢と私の夢が……
ずっと、ずっと、重なっていますように。
貴方と私が……
ずっと、ずっと、一緒にいられますように。
For future

'06/03
'09/01修正