気怠さを含んだ微睡からふわりと意識が浮上する。重たい瞼を開ければ、すやすやと寝息を立てる彼女が腕の中にいた。

「ルイ」と、甘ったるい声で俺の名前を呼ぶ唇も、涙を浮かべた艶めかしい瞳も今は気持ちよさそうに閉じられたまま。昨晩は彼女の制止も無視して、がっついた自覚はあった――何も纏っていない彼女の素肌に広がる鬱血痕が何よりの証拠だった。お互い個人での任務が続き、顔を合わせるのは本部への招集があった時くらいでまともな逢瀬の時間は取れていなかった。任務疲れと求めたいのに求められなかったことのストレス――我ながら幼稚な方法だ、と思わず息を吐き出した。しかし、目が覚めたその瞬間、腕の中にある〈ぬくもり〉に安堵と幸福感を覚えたのも事実だった。
薄暗い部屋の中、首だけ捻ってベッドサイドにある時計を確認すれば、6時過ぎ。カーテンから薄っすらと光が差し込む程度の時間だった。特に予定もない休日だ、もう一眠りしてもいいだろうと彼女を抱きかかえなおそうとしたその時――寝ているはずの彼女の手が俺の手を握った。

「……なぁ、起きてんだろ、

耳元で囁いてみるも隣から聞こえてくるのは規則正しい寝息。どうやら狸寝入りを決め込むらしい。彼女がその気ならそれでいい、こちらもそれなりの対応をするまでだ。
俺の手を握る小さな手のひらを一度開かせ、指を絡ませて握りなおす。すると、ぴくりと彼女の白い指が小さく跳ねる。その反応に口元が緩んでいく。さらに指を動かして手のひらをなぞれば、僅かに吐き出された息。それを続けているうちに、少しむくれた表情の彼女と目があった。

「ルイのいじわる」
「狸寝入りしてるが悪い」
「なにそれ」

唇を尖らせていじける彼女についばむだけのキスを1回。わざとではない、リップノイズに頬を赤くした彼女が可愛くて、心の底から愛しいと思う。

「ねぇ。今、何時?」
「6時すぎ。もう1回寝ようと思ってたとこ」
「……起きたら美味しい紅茶淹れてね」
「はいはい」

少し冷えた体、暖を取るかのように胸にすり寄ってくる彼女の瞼はもう落ちかけている。柔らかな髪を撫で、キスを落とす。

「おやすみ、
「おやすみ……ルイ」
03. 君が僕を呼ぶ甘美な瞬間

'17/02
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