その招集がかけられたのは、夜明け間もなくのことだった。
〈木の葉崩し〉のほとぼりが冷めきらない最中に起きたサスケの里抜け。想定外と思うほど想定外でもなかったが、状況が悪すぎた――腕の立つ上忍達は火影のいない里の復興に駆り出されて動けない。緊急事態と集められたのは、中忍になりたての自分。「小隊長」なんて柄にもない肩書を背負わされたとんでもない超重要任務。正直、気が乗らないどころの話ではないが、招集をかけられた際に見た――憔悴しきった翡翠色の瞳が脳裏にちらつき、〈里の脅威となり得る事態〉だと言い聞かせ、重たい腰を上げて最善と思われるメンツを説得しにかかった。
先日の選抜試験で苦楽を共にした数名に話をした後で自分の荷物をまとめる為、一度帰路へつくと見知った顔がこちらを向いていた。ざっくばらんな物言いやその目つきからきつい印象を与えがちな彼女が、今日はどこか憂いを帯びた表情をしている。――そういえば、こいつもあの翡翠色の目をした少女と"サスケ"を取り合う仲だったっけな、なんてどうでもいいことを思う。
「こんなとこで何やってんだ、いの」
声をかければ、憂いた深緑の瞳がまっすぐにこちらを捉えた。放っておけばいいのに、それが出来ない十年来の付き合いの長さが少し恨めしい。
「アンタを待ってたのよ」
「はぁ?」
彼女が言っている意味が相変わらずさっぱりだ。そもそも「待つ相手」が違うだろ。
怪訝な顔を隠そうともしない俺にいのは歩を詰めた。朝日に照らされた彼女の髪が眩しい。
「"小隊長"としての初任務なんだって?」
「あぁ」
「一応、〈隊長〉なんだし『めんどくせー』とか言わないこと」
「……あぁ」
「大怪我、なんてしないでね」
「……あぁ」
「ちゃんと無事に帰って来てよね」
「……あぁ」
「さっきから『あぁ』ばっかり!」
いつもの小言に生返事。そんな俺に痺れを切らしたようにぷりぷりと怒り出すいの。「人が折角心配してあげてるっていうのに!」とか「ネジさんに迷惑かけんじゃないわよ、小隊長!」とかいつも通りのいのが戻ってくる。柄にもなくしおらしい態度なんて取るな、お前はそうやってキャンキャン言って、「サスケくんサスケくん」って言っていればいいんだ。
ひとしきり喚いたあと、はぁはぁと肩で息をしているいのの顔がふと俯く。
「……いの?」
「……サスケくんのこと、頼んだわよ」
「おう」
微かに震えた声、俯いたままの彼女の頭に返事と共に手を置いた。――そう、これでいいんだと言い聞かせるように。
「シカマル、」
「ん?」
「……いってらっしゃい」
「あぁ」
きっとこの後、俺の知らない所で彼女は泣くのだろう。
それでも俺は――――
03. ハッピーエンドにあこがれて、
バッドエンドの夢を見る
'17/02
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