嫌な奴、それが彼の印象だった。
初対面から数分も経たないうちにあの悲劇。嫌がらせとしか取れない言動。それらが嫌な奴だと強く印象付けた。
しばらくして感じ取ったのが意外と仲間思いで優しい奴。本当は警戒心が人一倍強いだけなんだと思ったのはいつ頃からだったか。
それからどれくらいの歳月を経ただろう。実際にはそんなに経っていない。どんなに多く見積もっても3年ほどしかない。
しかしこの3年の歳月で彼への印象は180度転換した。嫌な奴がいい奴に。いい奴が好きな人へ。好きな人が恋人へと変わった。そう、この短期間に3つも段階を踏んだ。
正直この変化には自分でも驚いた。常に冷静な親友にこのことを話した時も、そういえば相当驚かれた。驚いた、というよりは至極嫌そうな顔を浮かべられた。まぁ……無理もない。だって彼女は彼を毛嫌いしているし、ことある毎に彼を敵対視しているのだから。
3年経った今でも彼のサボり癖は相変わらずで、今日も例に漏れずお昼を過ぎても教室に姿を見せることはなかった。
初等部から引き続き担任である鳴海先生は元から何か言うことはないけれど、目で訴えかけられていると気付いたのが最近のこと。
彼が素直に誰かの言うことを聞くような性格でないと知っていながら訴えかけてくる先生も物好きってゆーか、何とゆーか。それでもその訴えに応える自分も自分、か。
……って、なに呑気にモノローグを語っているんだろう。早く彼を見つけないと授業終わってしまう。
彼のサボり場所を見つけるのは意外なことに簡単だった。大抵、校舎近くに木陰か北の森の木の上で寝ているから。今日は……うん、校舎付近の木陰を探してみよう。
探し始めてから10分も経たないうちに棗を見つけることが出来てしまった。もしかすると最短記録かもしれない。少し大きめの木の陰で気持ちよさそうに寝ている彼。
手元には寝るまで読んでいたであろう雑誌がある。普段であれば隠されているはずの寝顔は無防備に曝け出されている。まるでうちが来ることを予想していたかのように。
その綺麗な寝顔に頬が自然に緩んでいく。彼の隣に膝を付き、その姿を眺めてしまう――自分の使命も忘れて。
「寝顔は可愛いんやけど……って、何考えてんねん、うちは!」
そんなことを考えていたら腕を掴まれてぐいっと前に引っ張られる。予想だにしない力の働きに抵抗することが出来ず、そのまま彼になだれ込む。目の前に棗の顔、一気に頬に熱が集中していくのがわかる。
「……なにやってんだ」
不機嫌な声が耳元で発せられる。それに反して離れようと身じろぎするうちの後頭部に手を回して押さえ、離そうとはしてくれない。
「なに、はこっちの台詞や!いきなり何すねんっ!……アンタ寝てたんちゃう?」
「さぁ」
「さぁ、って……」
後頭部を押さえられたまま身動きさえ取れず、それでも抵抗の形としていつものように声を張り上げる。一方棗はと言えば、耳元で発せられた声量に顔を顰めるものの手を離してくれる気はどうやらないらしい。それどころかお互いの顔が近いのをいいことに人の抵抗を無視して好き放題キスをけしかけてくる。
警戒心が強くて、でも気を許してくれれば目一杯甘えてくる猫が彼のその姿と被る。そういえば、彼は任務の時では"黒猫"って呼ばれていたっけ。もちろん、いい意味ではないことは知ってるけど。
「何や、アンタってほんま猫みたいな奴やな」
もうこれ以上抵抗したところで無駄だと判断して、一つだけ溜息を零し、感じたことを口にした。
「はぁ?」
うちの唐突な言葉に棗は怪訝さを隠さずに声に含ませる。ふと、後頭部に回された腕の力が緩まったので隙を見てその腕から抜け出す。うちが腕から離れたことに棗は不服そうな表情を浮かべたけど気にしないことにした。
「アンタのすること何や猫みたいやなぁ、と思っただけや」
「……そうかよ」
そう言って棗はまた目を閉じる。どうやらまだ寝る気らしい。
彼に聞こえない程度の小さな溜息を一つ付く。でも頬は自然に緩んでる。
鳴海先生、ごめんな。やっぱうちは棗の隣にいたいから。今日は大目に見て。
「……好きやで、棗」
05.
ひと。
'10/02
勝手に未来妄想。棗が思いっきりデレになってしまったorz
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