ギラギラに光る太陽、真っ青な空、白い入道雲――その下で汗だくでボールを追いかける君を見る、それが真夏のわたし達。
大好きな夏――けれど、困ることもある。夏バテ、日焼け、虫刺され……エトセトラ。

夏期講習で部活がないその日、私と彼は"英語の自習"という名目で部室へエスケープ。
最初は真面目に課題をやっていたものの、空調の効いてない蒸し暑い部屋では集中力が持たない。早々に見切りをつけた彼はベンチに横たわりいつも通り昼寝をするようだった。

「ねぇ、リョーマ」
「……なに」
「窓閉めようよ」
「アンタ馬鹿なの?窓閉めたら暑いだけじゃん」
「職員室に行ってクーラーつけてもらおう!」
「……遠い」

彼はそう言うとトレードマークである帽子を顔の上に被せて寝る体制に入ってしまった。
仮にも先輩である自分に向かって後輩にあるまじき言動。これは後で手塚、大石辺りに言ってやらねば!と心の中で誓いを立てながらぼそりと「自己中……」と呟いた。すると、「なにそれ、アンタに言われたくないし……それに暑いなら自分で行けばいいんじゃない?」と返ってくる――本当に可愛くない後輩だ。

「だって面倒なんだもん!ね?リョーマお願い!」

上目遣い気味にお願いしてみれば、さも呆れたような声色で「かわいこぶっても無駄っすよ。……それに、」と、おちおち寝ていられないことを悟った彼はそこで言葉を区切り、起き上がりベンチに座りなおすと「正直めんどくさいから先輩が行ってきてよ」、だって。

「なによーそれ。……部室出たら先生達に怒られるからやぁよ」
「それはアンタが制服着崩してる所為だから自業自得」
「えー!!」
「……ほら、第3ボタンまではずれてんじゃん。はぁ、……ほんと目のやり場に困るから勘弁してよね」
「どっかの誰かさんがクーラーつけに行ってくれないから暑いんだよ!そういうリョーマだって校則より多くボタンはずれてるくせに」
「俺は男だから。アンタは一応、女でしょ」
「その"一応"って引っかかるけど、男女差別反対!」
「あーもう、うるさい。……、?」

ぶつぶつと文句を並べる私にリョーマは耳を塞ぐ仕草をしたものの何かを見つけたようで不思議そうにこちらを凝視してくる。何事かと思い、その視線をたどると、どうやら私の胸元に何かあるらしい……。場所が場所だけにその視線だけでも多少の辱めを受けている気分だ。

「な、なに?」

おそるおそるその真意を尋ねてみると、「いや、別に……」と言いながら彼はソファーから起き上がり、少し離れた机にいた私の元まで歩み寄ってきた。そして何の前触れもなく、彼の手が胸元へと伸びてくる。急なことにびくり、と体が跳ねる。

「きゃっ!……な、なに?」
「ここ、赤くなってる」

そう言う彼は鎖骨のすぐ下の辺りとこを指でトントン、と叩く。私はそのくすぐったさに少し身を捩る。そして机の下に放り投げていたカバンから鏡を取り出すと赤くなっていると言われたの鎖骨のすぐ下辺りを見た。確かにそこは彼の言う通りに赤くなっており、目立つその場所に溜息を吐かざるを得なかった。

「さいあくだ」
「キスマーク?」
「ばっ、ちがっ!!!」
「ふーん、俺以外の男にキスマーク付けさせたんだ?」
「違うわよっ!……って、私いつからアンタの彼女だったのよ!?」
先輩ってそういうの好きなんっすねー……意外に」
「ちょっと!人の話、無視しないでくれる?誰が男に喰われたって言ったのよ!」
「その赤い跡それ以外に何があるっていうんすか」
「このマセガキ……。蚊よ、蚊!」
「蚊って……あの虫?」
「そうよ。もう本当に最悪……さっきから足とか腕とか食われてるのに。まさかこんな場所にまで……」

とんでもないことを言ってのける言ってのける後輩に軽く殺意を抱きながら私は再度鏡を覗き、赤くなった虫刺されの跡を軽くなぞる。その光景をどことなく残念そうな目で見つめているリョーマがいたなんて気が付きもしなかったけれど。

「……よく見ると結構食われてるっすね、先輩」
「そうよ、リョーマが窓閉めてくれない所為でね!」
「それは俺の所為じゃないっす。……ねぇ、先輩って何型?」
「え、O型だけど……」
「あれ、じゃあ俺と一緒っすね」
「えーほんとに?!じゃあ、なんでリョーマ平気なの?!」
「蚊もおいしい血の方が好きなんじゃない?」
「はい?」
先輩、血の気多そうだし」
「一言余計よ!」

ぽかり、とその頭を叩いたその手をグッと掴まれ、今度は彼の指ではなく顔が近付いてくる。今度は何だっていうのよ……と、身構えている私を余所に顔は次第に胸元へ近付けてくる。私の手を捉えている逆の手でシャツを少し引っ張られ、喉元に柔らかな感触――彼の唇が押し当てられ強く肌を吸われる、その感覚にぞくり、肩を竦める。ほんの一瞬の出来事なはずが、まるで何分もそうしているかのように思えた。べろり、とそのマーキングを一舐めすると彼は試合を楽しんでいるかのような満足そうな笑みでこちらを見ている。

「ちょっとどうしてくれるのよ……これ制服じゃ隠せない」
「俺が付けたって言っていいよ。どうせアンタは俺の彼女になるんだし」
「はあ?!」

まるで強い相手に出会った時のようにきらきらとした顔の彼に心底腹が立つ。『どうせアンタは俺の彼女になるんだし』って……ムードとか私の気持ちとかそういのはまるで無視ですか?……あの感覚は嫌いじゃなかったけども!いやいや、でもこれは私の危機だと思うんだ。こんなことがリョーマ様親衛隊に知れたらどうなるか……考えるだけでもおぞましい!

「ほら先輩、クーラーつけに行くんでしょ?」
「や、ちょっ、これどうすんの?」
「まぁ、どうにかなるんじゃない?」
「無責任っ!」

暑さに耐えかねて涼を求める為に前を歩く彼に抗議をぶつけながら歩く。すると、不意に彼が振り返り、目の前に影が落ちる。抗議の声はそのまま彼の唇に吸い込まれるように消えていく。ちゅっ、と響くリップノイズにまたあの感覚が襲う。

「もう黙って俺の彼女になっときなよ」

あぁ、もうほんと自分勝手な後輩。でもその赤い頬に免じて許してあげようかな。
ギラギラに光る太陽、真っ青な空、白い入道雲――その下で汗だくでボールを追いかける君を見る大好きな夏――けれど、困ることもある。夏バテ、日焼け、虫刺され……エトセトラ。
01.情熱ギプス

'14/04

最後の台詞が言わせたいが為の作品。
リョーマわからなさすぎて偽物(土下座)
そして季節感皆無……


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