彼はよく笑う。
だからと言ってヘラヘラしているわけでもなくて。そう、はにかむことが多い。頬を赤く染めてはにかむあの姿が映った写真はよく売れる。正直、日向くんの写真なんかよりも売上がいい。でもその写真が売れる度に心の奥底が小さく痛むような気がした。……そんなことあるはずないと、自分に言いか聞かせている自分が何となく馬鹿らしい気もした。

『今井さーん!』
「何?」
「この流架くんの写真欲しいんだけど……」
「いいわよ」
『やった!ありがとー!』
「別に」
『お金ここ置いておくね』
「ええ」

そうやって数人の女の子達は私の元にお金を置いて写真を見つめて頬を染めながら去っていく。その後姿を見ながら、ふぅと溜息を付いてみる。やはり彼のあの写真が他人の手に渡ることは面白くない。胸の奥がざわつく。研究資金調達の為――もとい、彼をおちょくる為にやりだしたこの行為。やめてしまえば心の安定は保たれるのに、なんて思ったりもして。でもやめられないのは悲しい性分で。



彼女は滅多に笑わない。
笑わないというよりも満円の笑みを浮かべるをことが少ないだけで上から目線の不敵で恐怖すら覚えるような笑みならよく見るけれど。だからというわけでもないけど、滅多に見れない満円の笑みを見ると胸がドキっと高鳴る。彼女のツインテールの親友の笑顔を太陽に喩えるなら、彼女の笑顔は月に喩えよう。凛としたその笑みを見ることが出来る者は数少ないがそれが故に彼女の印象が変わった者は多い――俺もその一人なのかもしれない。

「あら、流架くん」
「?!うわ、……何だ、今井か」
「何よ、そのリアクション」
「い、いや……別に」
「ふぅん。……ねぇ、」
「な、何だよ」
「怪我してるの?」
「えっ?!」
「その子猫よ」
「あ、あぁ。軽傷だったけど」
「……そう」
「仲間内で喧嘩したみたい。……そういえば、今井は何でここに?」
「ちょっと私用で」
「……また変なこと企んでないだろうな?」
「人聞き悪いこと言わないでくれるかしら」
「あのなぁ……」
「彼女達の気持ちが何となくわかった気がしたのよ」
「え?」
「でもやっぱり気に食わないのよ。……貴方の笑顔を見れるのは私だけでいいのよ」
「……今井?」

話が見えず呆然としている俺を余所に淡々と言葉を紡ぐ彼女。風が吹いて最後の方は上手く聞き取れなかった。名前を呼んで問い返せば彼女はふいと顔を背ける、そんな姿が新鮮でふと笑みが零れる。気が付けば彼女もこちらを向いてあの笑顔で微笑んでいる。ここに来てから一番穏やかな時間だと思った。

「その子猫の手当てもあるし、そろそろ戻るわよ。流架くん」
「あぁ、そうだな」
01.笑顔

'09/08

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