いつもダルそうな顔をしている彼。
いつも自信に満ち溢れている顔をしている彼女。

身体のあちこちを傷だらけにして、血塗れになって帰ってくる彼。
目に涙を湛えて、それでも流すまいとして帰りを待つ彼女。

無茶ばっかする彼。
強がってばかりの彼女。

心配するこっちの身にもなりなさいよ。心臓いくつあったって足りないじゃない。
自分がどんな顔してるか知らねぇだろ。そんな目されたら何も言えなくなるんだよ。

顔を合わせれば可愛くもない我侭しか言えない私を黙って優しく包んでくれる彼。
めんどくさがりで何も与えてやれない俺に優しい笑顔でいつでも迎えてくれる彼女。

あぁ、どんなことがあったって、あなたが傍にいてくれるだけで幸せなんだ。



「もうっ!無茶な真似はやめてよね、シカマル」

いつもの如くボロボロになった状態で任務から帰還したシカマルは病院の一室で治療を受けていた。 彼の治療を担当することになった、いのは彼が横たわるベッドの横でむすっとした表情をしながら溜息交じりに声をかける。

「……しないようには努力する、多分」

治療を受けながらシカマルはいのの小言に曖昧に返事を返す。この流れはいつものことだから然程気にしていないのか、シカマルはあらぬ方向を向いて彼女から視線を外す。

「最後の"多分"って何よ」

シカマルの曖昧な返事にいのは語気を強めて聞き返す。その間も彼女の手はテキパキと動き、彼の治療を行っている。
基本心配性ないのだが、ことシカマルの――元10班のこととなるとその心配は一層強くなる。普段気丈に振舞っている分、一度繋ぎとめている緊張の糸が切れてしまうと脆いのだ。不安と安堵がなだれを起こす。 今もその目一杯に涙を湛えながらも眉間に皺を寄せて、泣くまいと堪えている。その姿は見るのも痛々しいほど。
シカマルはいののこの顔を見るのが苦手だった、だから顔を逸らした。彼女の語気の強さに呆れからか小さくを溜息を零し、視線は相変わらず明後日の方向を向きながらゆっくり口を開いた。

「……仕方ねぇだろ、忍なんだからよ」

それは事実だ。
忍として任務に出て行くということは危険と隣り合わせであるということ。ましてシカマルのようなクラスの忍であれば、より一層危険度が増す。
それは同じ忍であるいのも理解している。それでも無茶だけはしないで欲しい、と願うのだ。

「わかってるわよ、そんなこと。……でも、」
「でも?」

相変わらず意地っ張りだ、とシカマルは思いながら苦笑を零す。
一拍置いてから発せられたいのの少し弱めな声色にシカマルは思わず彼女の方を振り返る。 振り返った彼の視界に今にも泣き出しそうなほど顔を歪めたいのが映り込む。

「お願いだから、今回ような"無茶"だけはしないでよ。……私ばっかり心配するんじゃ割りに合わないんだからっ!」

弱々しく放った言葉を誤魔化すかのように吐き出された棘。
それすら可愛いと思ってしまうんだから相当重症なんだろうな、と思いながらシカマルは「あぁ」と短く答え、彼女の頬へ手を伸ばし、指の腹でその溢れんばかりの涙を拭う。


たくさんの"好き"を交わした彼。
たくさんの"愛してる"を交わした彼女。


今、傍にいてくれてありがとう。
03.存在

'10/01

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