同じようにやって来て、君と出会って。出会った頃は色んな感情が取り巻いて、色んな人を巻き込んで反発し合って――体にも心にも傷を残して。それでも君といることが一番心地よくて、いつも一緒にいた。一緒に笑って、ふざけあって、喧嘩して、時には泣いて。この関係が続いていくことをずっと望んでいたのは遠い昔だったようで。



空が赤いグラデーションを作り始める夕刻、教室の一角に二つの影。明かりも点けないまま背中合わせに座った二人の間には静寂が立ちこめている。どれくらいの間彼らはそうしていたのだろうか。しばらくして少年が静寂を破るように口を開く。

「……なぁ、」
「……」
「いい加減機嫌直せよ」
「……別に怒っても拗ねてもないんだけど」
「嘘つけ」
「……嘘なんてついてない」
「じゃあ何でそんなにも泣きそうな声してんだよ、美咲」
「……」

少年の声に少女はまた押し黙る。先程まで然程体重のかかっていなかったくっついたままの背中にぐっと少女の体重がかかる。そしてコツンと少年の後頭部に少女の頭がぶつかる。

「……美咲?」

外は次第に色が落ちて行き部屋の中は闇に飲まれていく。視界がはっきりしなくなり、ぼんやりとした空間で不意に感じたぬくもりに少年が問いかければ少女はごにょごにょと口を開く。

「……、いやなんだよ」
「なにが?」
「あたしだけ置いてけぼりなのは、」
「……ん」
「やっぱり嫌なんだよ。……あたしだけ置いてけぼりなのは、寂しいんだよ」
「……みさ、き」
「ごめ、ん……我儘なのはわかってる」

少女がまるで自分自身に言い聞かせるように呟いた言葉に少年は何かに躊躇するように彷徨う片手に力を入れて握る。
そのままどれくらいの時間が経っただろうか、ふと少女が時計に視線を止めれば夕刻をとっくにすぎて宵の口を指し示していた。それに気付いた彼女は慌てて腰を上げる。急に支えを失った彼の体は後ろへと傾き、倒れる。

「げっ、もうこんな時間かよ?!」
「おわっ?!」
「あー……ごめん、翼!大丈夫か?」
「何とか……」

その少年の一言に少女はほっとして「ほら」と手を差し伸べた。彼がその手を握ると彼女はぐいっとその手を引き、立たせる。

「……なぁ、美咲」
「なんだよ?」
「俺さ、お前がいるから頑張れんだけど」
「ばーか」

少年が彼女にしてやれる精一杯のこと。少女の精一杯の強がり。時は無情にも彼らを巻き込み進んで行く。それでも彼らは二人、互いのぬくもりを背中に感じて生きて行く。
02.ぬくもり

'09/08

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