「ねぇ、蛍」

彼女の研究室。
噂では学園に言って作ってもらったとか何とか。広さも設備も申し分ない、彼女だけの特別な空間。ここに入ることを許されている者ははっきり言って少ない。あのツインテールの親友でさえ入室を許可されていない。そこに自分が入れるという小さな優越感に思わず笑みが零れる。
俺はふと彼女の名前を呼ぶ。すると、不機嫌極まりない声と顔でこちらを見る彼女。この顔も声も見慣れ聞き慣れているのでさほど怖くもない。

「……何よ、流架。しょうもないことだったらシバくわよ?」
「しょうもなくなかったらいいんだ?」
「もう何なのよ。こっちだって暇じゃないのよ」
「わかってるよ。ねぇ、蛍……この学園出たら結婚しようか」
「……は?」

あぁ、思った通りだ。
先程の怖さは何処に消えたのか、今の彼女は目を丸くさせてぽかんと俺の方を見ている。
あぁ、この表情を他の奴らには見せたくない。微かな独占欲が俺の中に生まれる。
俺はもう一度彼女に先程と同じ言葉を告げた。

「だから、この学園を出て結婚しよう」
「……ねぇ、貴方自分で何言ってるかわかってる?」
「あぁ、わかってるよ」
「ムードもへったくれもないじゃない」
「蛍からそんな言葉が聞けるとは」
「本当にシバくわよ?」
「それ怖くないから」
「〜〜〜〜っ」

憎まれ口なんて日常茶飯事だから本当に怖くない。それどころか可愛いとさえ思ってしまうんだから本当に罪だよね。
俺は彼女を後ろから抱きしめて耳元で囁く。

「……で、返事は?」
「流架なら喜んで」

口付けを一つだけ交わして、愛を誓って。
俺は彼女から離れ、先程まで読んでいた本を読み出す。彼女はまた作業を始める。
ラブストーリーは突然に

'09/03