もう一生会うことはないだろうと思っていた、かつての友人は、あの頃の面影を残しつつもあどけなさを感じさせない青年の顔つきで私の前に現れた。
過去を変えてしまった代償として時空間を彷徨い続ける私と兄を見つけ出した彼の顔ときたら、カメラに収めておきたいほどだった。真っ先に泣いて抱き着いてきた蜜柑の傍らでどうやら彼も涙を滲ませていたようで、その母親譲りのきれいな瞳は、まだどこか潤んでいた。

「……ルカくんにも迷惑をかけたわね。ごめんなさい」
彼に託した"あの"アリスメカによって彼がここにいるのだとしたら巻き込んだのは私の責任だ。

「それは、別にいいんだ。今井は棗の命の……俺達の恩人だから、本当に感謝してる。それに……それに、これのおかげで俺は、今井のことを憶えていられたんだから」

ルカくんは困ったような顔をして、けれど、恥ずかしげもなくとんでもないことを言ってのけた。私は「……そう」と素っ気なく返事をして、彼に背を向けることしかできなかった。そうでなければ、見つけてもらったのにもかかわらず、まったく可愛げもない鋭いトゲのような言葉が口をついてしまっただろう。
不意に後ろからあたたかな体温と香りに包まれて肩がはねた。

「もうどこにも行かないでよ、今井。……俺の隣にいて。好きなんだ、今井のこと」

耳元に触れる彼の吐息が熱い。背中に触れる胸板が、私を包むその腕が、七年の歳月が彼を少年から男に変えたのだと意識してしまえば、柄にもなく心臓がどくどくと騒ぎ出すのを感じた。――嗚呼、そんな声で囁かないで。

「……ルカくん。あなたって、ほんと……ほんと……」

バカね、そう答えるのがやっとな私の声はとても震えていた。
愛を謳うテノール

'19/01