「つーばーさぁ!!」

美咲は何冊かの本を片手に翼の部屋を訪れた。
ここアリス学園中等部には男子寮と女子寮がある。
もちろんのことだが男子が女子寮に行くことも女子が男子寮 に行くことは禁止されている。しかし翼や美咲達にとってそ んなことはあってないようなもので。彼女にしてみれば今日 もちょっと遊びに来た程度だった。

「あれ?翼?」

いつも部屋に入ったら何かしら言ってくる翼の声がないのに 気付き、美咲は辺りを見回すと机の上で寝ている翼が見えた。

「何だ寝てんのかよ……」

美咲はふぅと溜息を付いて持っていた本を机の上に置く。
彼から借りていた本を返す為に部屋へやって来ただけだった 美咲なのだが、部屋の住人は夢の世界へと旅立っていてこの まま本を置いて帰るのは貸してくれた彼に対して何だか申し 訳ない気がして彼女は少し躊躇して翼を起こそうと彼に近寄 る。

「翼、ちょっと起きて」

美咲はくしゃりと翼の髪をいじりながら言う。が、しかし翼 は起きる気配を見せない。これでも起きないというのは余程 の事がない限り眠りの浅い彼にしては珍しいことだ。
スゥスゥと寝息を立て眠る翼に彼女は「最近色んなことあっ たから疲れてるんのかな……」と呟き、そんな彼の頬に美咲 は口付けた。――それはちょっとした『出来心』

「翼のくせに幸せそうな寝顔しやがって……」

そんな悪態を付きながらも笑っている美咲だったが、ふと服 の合間から見えた綺麗な首筋に「……男のくせして何でこう も綺麗かな?」と思わず息を呑んだ。
指先で翼の首筋をなぞり、ちゅっと音を立てて吸い上げる。
唇を離してみると紅い所有の華がくっきりと残っているのが 見える。その紅い華をなぞろうと指を伸ばしたときぐっと手 首をつかまれた。

「まさか美咲にこんな趣味があったとはな……」
「ちょっ、翼……アンタ起きてたの?!」
「ん、ああ。ちょうどお前が俺の頬にキスしてた辺りからな。 でも美咲が珍しいことしてくるから寝たふりしてたんだよ」
「……最悪」

美咲は恥ずかしさと悔しさで顔を真っ赤にして呟く。
普段見ることの出来ない彼女の姿と先程付けられた所有の証 に気を良くした翼は掴んだままの美咲の手首をぐいっと引っ 張る。そのことにより彼女はバランスを崩し、翼の方へ傾い た。彼は彼女の腰を片腕で支え、もう片方の腕を後頭部へ回 し顔を近付ける。

「なぁ、美咲」
「な、に……?」
「頬と首筋だけでいいの?……まだキスするとこ残ってんだけど」
「し、知らないっ!……ってか、この体制どうにかしろ!」
「やだ」
「ちょっ、つばさっ!」

美咲は抵抗する為に翼の胸を押すがそれは何も効果を成さな い所か余計に彼の腕に力が入る原因となってしまった。

「ほら、美咲」
「〜〜〜〜っ」

こういう時の彼には逆らわない方が得策だという事を美咲は 嫌という程経験しているので渋々と目を瞑りそっと彼の唇に 口付けを落とした。それはほんの一瞬のことで彼女はすぐさ ま唇を離し、彼の腕を解こうと身をよじる。
が、「……全然たんない」という言葉と共にまた引き寄せら れ口付けられる。彼の舌が彼女の薄く開いた唇を割って入り逃げ惑う舌を絡め とる。そうこうしていると美咲も翼の首に自分の腕を回し、 自ら彼を求めるように舌を絡めた。

「んん……んはぁ……っあ」
「寝込みを襲うのは『反則』デスヨ、美咲さん」
「〜〜バカっ!!」

結局その晩は彼から逃げることが不可能となり、彼の部屋に 泊まった美咲が自らが彼に付けた紅い華と同じモノが自分の 首筋――彼のと同じ位置にあると気付くまでもう少しかかる だろう。
眠るあなた

'09/01修正