9月25日に日付が変わったと同時に俺のスマホは、うるさいほどの通知音を響かせる。
通知画面に次から次へと表示されるのは誕生日を祝う言葉たち。その長さやスタンプの種類にそれぞれの個性が表れていてなかなか面白い。俺が所属する立海テニス部の先輩・後輩に始まり、U-17合宿とW杯を共に戦い抜いたメンバーやクラスメイト、果ては小中学生時代の同級生まで様々な人間から送られてくるトークはあっという間に2桁を超えた。
ただ、一番祝ってほしい人からの通知はなくて俺は大きな溜息をついて布団に潜り込んだ。


誕生日だというのに相変わらず朝は起きれなくて、スマホを確認する暇もなくバタバタと学校へ向かう。
ホームルームが始まる前に確認したスマホに彼女からの通知はなく、がっくりと大袈裟に肩を落とした。

昼はクラスでよくつるんでる奴らが「赤也、誕生日だろ?」と菓子パンを1つずつくれた。「こんなんで足りるかよ!」と悪態をついてみたが、嬉しかった。その後、確認したスマホは深夜のけたたましさを潜めて無言のままだ。

放課後は部活に出た。テニスをすることは大好きだし、強い相手と戦うのだって好きだ。
幸村部長が「赤也へのプレゼントは俺達との試合がいいだろ?」って言ったから、喜んでもらうことにした。……また、負けたけど。
負けてめちゃくちゃ悔しがってる俺を、丸井先輩とジャッカル先輩と仁王先輩と柳生先輩がハンバーガーを奢ってくれた。……んだよこの人達、俺のこと大好きかよ。

家に帰って、父ちゃんと母ちゃん、姉ちゃんにも祝ってもらって満足は満足だけど、やはり物足りない。
もう何度目かわからないが、アプリを開いた画面上部に、俺が待ち望んでいる名前はない。その名前を探し出して、トーク画面を表示すれば、2週間ほど前に会話が終わったっきりで思わず溜息が零れる。時計はもう11時を回っていて、俺の誕生日も終わりが近づいていた。

「……っちぇ。なんだよ、俺のことなんてどうでもいい、ってか?」

ボスン、とベッドへ倒れ込み、何の変化もないスマホを恨みがましく眺めたその時だった。
『起きてる?』と一言だけ送られてきたメッセージ。トークを開きっぱなしにしていたから、すぐに既読が付いてしまって、俺は慌てて上半身を起こした。そんな俺を余所に、既読がすぐに付いたことから俺が起きていると判断したのだろう彼女から『電話してもいい?』と続けてメッセージが入ったので、了承の意を込めたスタンプを1つだけ送信した。スタンプを送ってから間もなく、着信を知らせる音が部屋に響いた。緊張からか、ごくりと喉が鳴った。

「もしもし?」
『遅くにごめん』
「起きてたし、別に。それより、アンタから電話なんてめずらしーじゃん?」

アンタからの連絡をずっと待ってたなんて恥ずかしくて言えるわけもなく、ぶっきらぼうで茶化すような言葉だけ口を衝く。それをどう受け取ったのか、彼女は電話口でもごもごしていた。

部屋の時計はもうすぐ天井を指そうとしている。

『あのさ、赤也。……お誕生日おめでとう、ございました』
「……は?」

思ってもみない台詞にとてつもなく間抜けな声が出た。

『ほ、ほんとは25日になってすぐ「おめでとう」って言うつもりだったんだけど、何か張り切りすぎって思われそうだし……って、色々悩んでたらこんな時間になっちゃって……。えっと、そのっ……』
「……」

尻すぼみになっていく先輩の声は今や何を言ってるのかはっきりと聞こえなかった。
ああ、電話でよかった。鏡を見なくてもわかるほど自分の顔が熱い。
真っ赤になった顔を手のひらで覆い、ぽかんと口を開けたまま何も言えないでいる俺の鼓膜を『赤也?』という彼女の小さな声がくすぐった。
拗ねてたのが何だかバカらしくなった。

センパイ。俺ね、ちょー嬉しいっす。……ってか、俺めっちゃ愛されてるっスね?」
「……え、へぁ?」
「何その変な声。だって、誕生日の最後の瞬間をアンタに独占されたんすよ?」
「うっ……改めて言われると恥ずかしい……」

電話の向こうで顔を真っ赤にした先輩は簡単に想像できて、満たされた気分だった。
nervous on birthday

'18/09