とある日の放課後。
いつもの四人でいつものように彼の家でワイワイやっていた。私とは柳生に課題を教えてもらいながら三人でしゃべっている。ブン太は黙々とテレビに向かってゲームをしている。
「全くどうしてお二人共揃いも揃って数学苦手なんでしょう」
「……私、よりマシだし」
「、ひどいよ。……でもさ、仁王くんと別れてから成績落ちたよね」
はそう言い終えた後すぐに『しまった!』と思ったのか顔を歪めて柳生を見る。柳生は浅く溜息を零しの頭を小突いた。そんな二人を見て私は苦笑いを浮かべながら持っていたシャーペンを置き言った。
「確かに落ちたねー。でもアイツの所為じゃない」
「……」
「だから言いましたでしょう、仁王くんだけはやめたまえと」
「そんなこと柳生言ってないよ」
「いいや、言いました」
「絶対に言ってない」
「絶対言いました」
「私言われた記憶ないもん」
「それでも私は言いましたよ」
「言ってないよ!」
「言ったって言ってるでしょう」
「言われてないって言ってでしょ?」
「もうお前らうるせぇ!」
私と柳生が言い合っているとこに苛々したブン太が怒鳴った。
「お前らの所為で負けただろぃ」
「いや、それは私達の所為じゃないないですよ」
「……比呂士、何か言ったか?」
「いいえ、何も」
本気で腹が立っているのかブン太はコントローラーを握ったまま柳生を睨む。
「……小腹も空きましたし、コンビニで何か買って来ましょう。丸井くんは何かありますか?」
「ケーキにプリンにゼリーとか!」
「相変わらずですね。さんは?」
「あー……私あんまり食欲ないからいいわ」
「わかりました。……では、行きましょう」
「うん」
柳生がそう言ってに手を差し伸べる。その手をはゆっくり握り二人は部屋から出て行った。
私はその光景を黙ったまま見つめている。その横でブン太はもう一度ゲームをやり始めた。
あれから何分が経っただろうか。
柳生とは一向に帰って来ないし、ブン太は相変わらずゲームをしている。私は課題をやろうにも柳生がいなければ出来ないから課題を放置してブン太のゲーム画面をぼぉーっと眺めているだけだった。ブン太も私も言葉を発しないから部屋には秒針の進む音とゲームの音楽・効果音。それとたまに失敗したりすると聞こえるブン太の舌打ちだけ。
「……なぁ、」
不意にゲームをしているブン太が後ろにいる私に声をかけてきた。
「なに、ブン太」
「お前さ……まだアイツのこと好き?」
「え……?」
「だから、まだ仁王のこと好きなのか?」
「……」
急な彼の言葉に私は黙ることしか出来なかった。
雅治のことを今でも好きかと聞かれれば、答えはNO。彼のことを吹っ切ったかと聞かれれば、それもNO。
最初からこの恋の結末を知っていたとはいえ、そんな簡単に諦めのつくものじゃない。
どうしても自分の中で終わりを告げられない。
私が黙っているとブン太が口を開く。さっきまで鳴っていたゲームの音がいつのまにかなくなっていて画面を見てみればそこはゲームが消されていて暗くなっていた。
「まだ忘られないのか?」
「……もう好きじゃない。でも吹っ切れては、いない」
「そっか」
ブン太がそう言うと部屋にはまた沈黙が流れた。さっきとは違って妙に秒針の音が私の心を乱して行く。
「……」
「ん?」
「……このタイミングで言うのはずるいかもしんねぇけどさ、でもお前に言わなきゃいけねぇことあるんだ」
「……?」
さっきからテレビに向かっているブン太は私に背を向けている。だから顔を見ることは出来ない。でもいつもの彼じゃないことだけはわかった。だから私はブン太の言葉を待った。
「俺さ……のことずっと好きだったんだ」
「ブン、太……」
「が仁王しか見てないの知ってたから今まで言わねぇでいたけどな。でも俺ずっと好きだった……」
「……」
彼の言葉に私は愕然とした。
ブン太が私のこと好き……?今まで何も知らずに相談し続けてきて……。私はいつから彼を傷付けてきたのだろうか……?
私は何も言えなくてただ、ただ彼の背中を見つめた。そうするとブン太は私の方を振り向き泣きそうな顔をしている私の顔を見て苦笑いをして私の傍へ来てそっと優しく頭を撫でてくれた。
「あー、そんな顔すんなって。前にも言ったけど、には笑顔が似合うんだから俺の前でくらい笑えよ!」
「……ブン太」
「ほら、笑え」
ブン太がそう言うから私は涙目になりながら少しはにかんだ。それを見るとブン太も笑い、私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「よし、上出来! ……今のお前に付き合って欲しいなんて言っても無い物ねだりってゆーのはわかってるから」
「……」
そう言うと彼はまた私に背を向けて、ゲームの電源もう一度入れた。そうすると暗かった画面にはまたゲームのタイトルが現れる。
「が仁王のこと吹っ切れるまでちゃんと待ってっからさ。……だから、吹っ切れたら覚悟シクヨロ」
彼の言葉が私の心を打っていつのまにか私の瞳には涙が溢れていた。私は涙を拭い、再度ゲームをやり始めたブン太の背中に自分の背中に合わせ寄りかかった。
「ねぇ、ブン太。……今すぐブン太が雅治以上になるのは無理だけど。……でも、いつか雅治以上になったらその時はよろしくね」
「おう。……しょうがねぇからもらってやるよ」
背中越しに伝わる貴方の温かさは今でも変わらなくて。その温かさだけで私は何故かとても安心出来る。
いつか貴方が私の一番になるまで貴方の想いは無い物ねだりになってしまうけど。でもきっといつか貴方を一番に……。
ないものねだり
'09/03