傾き始めた太陽の赤い日差しが薄暗い教室に差し込みだす夕刻、自分の席で日誌を書いていると正面から女の声が聞こえる。今自分の前にいるのはたった一人しかいない。――同じく日番であるの声だ。
「なぁ、財前」
「……なに?」
俺は視線を日誌に向けたまま返事をする。
運動部、文化部の掛け持ちが必須のこの学校の規則に従った結果、彼女とは文化部が一緒だった。同じクラスで同じ部活、たまたま日番だっただけの話で特別仲がいいわけではない。
頬杖を付きながらはまじまじと俺の耳を凝視。それからこう言葉を発した。
「財前のピアスってほんまに5色やねんなぁー」
「いきなり何やねん」
唐突な台詞に日誌から視線をはずし、顔を顰めて問えば当の本人はあっけらかんとした口調で「この前忍足先輩が言うてたから気になってん」と言いながら俺の手から日誌を奪い、一言書き足していく。
彼女のその言葉に特徴的な太陽みたいな色をしたひよこ頭の先輩を思い出す。運動部も文化部も一緒で俺にとっては一番近い存在。
っちゅーか、あの人が何でそないなことを知ってんねんて話や。その上それをに話すって……ほんまどういう神経してんねん、あのスピードスターは。
「……あんのヘタレ余計なことを、」
「なんか言うた?」
「何でもないわ」
「ふーん。……でもほんまに五輪色やねんなぁ!今まで全然気ぃ付かんかったわぁ」
はそう言いながら持っていたシャーペンを机に置き、日誌をそっと閉じる。
「別に五輪旗を意識したわけやないし」
「なぁなぁ、何色がお気に入りなん?」
俺は少し眉根を寄せてぼそりと吐き出すと、それを大して気にしてないかのようには頬杖を付いて言葉をかけてくる。思わず目を見開いて彼女の顔をまじまじと見てしまった。
「……はぁ?」
「せやから、何色のピアスがお気に入りなん?」
「赤、やろな」
「……なに、その曖昧な返事は」
俺の返事には元から大きめな目をパチクリさせる。その様子が何だか可愛いとか思ったけどそれを悟られないよう表情を変えずに言葉を発する。
「ほんまはカーマインがよかったんやけど、なかったからしゃーなし赤やねん」
「そうなんや。……ピアスかぁ、うちも開けようかなぁ」
「優等生やめるん?学級委員のサン」
「ちゃうちゃう!将来的に、ってこと!」
にやりと口角を上げながらからかうと、目の前の彼女は顔の前で手を大きく振って俺の言葉を全力で否定する。
「何や面白ないわぁー。っちゅーか、その"優等生"面ただの猫被り、やろ」
「……財前って面倒な人間やな」
「そら、おおきに」
「はぁ……」
うなだれるに自然と上がる俺の口角。相変わらず性悪だと自分でも思うが、好きな子ほどいじめたい性分なのだ。
「あー、……ほんまに開けるんやったら自分のピアスホール俺が開けたるわ」
「、ええの?」
その一言に勢いよく顔を上げる。なんとゆーか犬みたいやな、と思う。
「別にええで。ピアッサー何個か持っとるし」
「ほんまに?!……じゃあ、今度開ける時頼むわ」
「ん。つーか、って耳弱そうやなぁ」
「へ?……や、あんま得意な人そんな居らん思うけど、」
「ふーん。……で、結局どっちなん?」
「、?!きゃっ」
少し気になったこと――咄嗟に芽生えた悪戯心。
俺は手を伸ばして黒髪の間から覗く透き通るほどに白い耳を撫で上げる。すると、予想以上の反応にまた口角が上がる。
「あー、やっぱり弱いねんな」
「、ちょっ……もう何なん、財前」
「いや、何や開けるん楽しみやなって思っただけやから」
「はぁ?」
「何もないわ。……それより、」
「なん?」
「知っとった?『ピアス開けた相手に運命握られる』っていうん」
「……っ、財前それ反則」
「の運命、俺が握ってもええやんな?」
「、お好きなだけどうぞ」
「おおきに」
piercerly destniy
'10/07/20
『わたしの彼はひだりきき!』寄稿