終業式を終えた午後一番のテニスコート。白い入道雲と青い空、グラスコートの緑が眩しくて思わず目を細める。
うだるような暑さに思わず溜息が零れるが、関西大会を控えて迎えた夏休みだ、この機会を逃すわけにはいかなかった。いつも以上に細かく休憩を入れると、部員達は皆それぞれ日陰に入ったり、ミストシャワーの近くに集まったりしていた。

「ざーいぜんっ!」

他のレギュラー部員より少し離れた日陰でしゃがみ込み、頭からフェイスタオルを被ったままの後輩の頬にぴたりと手に持っていた薄青の瓶を当てた。ひやりとした感覚に勢いよくその顔が上がり、驚いたその表情は瞬く間に見慣れた不機嫌な目つきへと変わっていった。

「やっば!財前の今の顔、めっちゃレアやん?!写真撮っとけばよかったー」
「はぁ……さん、ほんま悪趣味っすわ」

嫌そうな顔を隠しもせず、大きな溜息を零す財前の横で私はケラケラと笑った。
はい、と少し汗をかいた瓶をもう一度彼の頬に押し当てれば「もうほんまそういうのええですから」と不機嫌そうな声で怒られた。しかし、少し華奢な手が瓶を確かに握るのを見て『ほんと可愛い奴め』と彼の横に腰を下ろす。反対の手に持っていた氷嚢を下を向いていた財前の首に乗せてみたが、今度は何も言われなかった。低体温の財前にこの異常とも言える気温は毒でしかないのだろう。

「……ちゅーか、このラムネなんすか?」

ビー玉の落ちる音、炭酸が弾ける音と共に財前の小さな声がした。

「オサムちゃんからの差し入れやって」
「はぁ?部活やのに何考えとんの、あの人……」
「今日が〈財前の誕生日〉だから、やろ」
「あ……」

カラン、と青いビー玉が揺れた。

「なんや今日はえらい表情豊かやなぁ?」
「ほんまアンタのそういうとこ、うざいっすわ」
「おおきに」
「褒めとらんっすわ。……はぁ、どうりで朝から金太郎がうるさかったわけや……」
「今日の練習切り上げて部室でサプライズパーティーするんやけど、動けそう?」
「本人に言うたらサプライズとちゃいます」

呆れた顔をした財前は首の後ろに乗っかったままの氷嚢を片手で押さえつつ、ラムネを呷った。そんな彼に「まぁまぁ!はよせんと謙也と金ちゃんが痺れ切らして迎えに来そうや」と苦笑いを零す。財前が瓶を動かす度にカランコロンとビー玉の踊る音に『嗚呼、夏だ』と思った。

「なぁ、さん」
「んー?」
「ラムネ、ごちそーさんでした」
「いや、それオサムちゃんからやし……」
「あと〈これ〉も助かりましたわ」

カラカラと音を立てる氷嚢を振って財前は私より先に部室へと向かって行った。フェイスタオルはいつの間にか肩にかかっていて、太陽を浴びた5つのピアスが眩しかった。
サマーブルー・メモリーズ

'18/07