遠くの方からバタバタとうるさい足音がする。それに引きずられるようにして沈んでいていた意識が浮上した。バン!と勢いよく開いたドアに思わず眉を顰めて「謙也、うるさい」と呟くとそれは静かな室内に響いた。

「お、、起きてたん?」
「謙也の足音で起こされた」
「そりゃ、すまんな」

ベッドに近づいてくる謙也はユニフォームのまま。外から走ってきたからか、汗ばんだ彼の大きな手がそっと髪を一撫でする――その熱さと笑顔は太陽みたいだと思う。

「なぁ。アンタ試合は?」
「おう、抜けてきた!」
「はぁ?アホなん?」

夏休み真っ只中の今日、我らがテニス部は近隣校と練習試合を組んでいた。それを抜け出してきたと笑顔で答えるこいつは一体どうなってるんだ。誰か止める人間はいなかったのか、と頭を抱えたくなった。

「アホやアホや思ってたけど、アンタほんまのアホやな?」
「アホアホ言うなやっ!ここに来る前に散々言われたっちゅーのに……」
「ほんまのこと言うて何が悪いん!……もうほんまアホやわ……」

売り言葉に買い言葉。ここが保健室であることも忘れ、私達はいつも通り軽い言い合いになる。
盛大な溜息を零すと、決まりの悪そうな表情をした謙也の掌がベッドの上に放り出されていた私の手を握った。

「……お前の彼氏なんやから心配くらいさせろっちゅー話や」

ぽつりと落ちてきた甘い音に弾かれたように顔を上げれば、真っ赤に染まった頬。暑さの所為なんかじゃないそれに私は「……謙也のあほ、」と返すのが精一杯だった。
すべては暑さのせい

'18/09