新学年に上がったばかりの新学期。長い休みが明け、久しぶりに会う友人達に少々驚きながらも教室は賑やかだ。
授業も終わり放課後を迎えると、どこに行くだの飲みに行きたいなどの会話が頭上を飛び交う。そんな中帰り支度をしていると不意に声をかけられる。

「なぁなぁ、!今日みんなで新歓の下見も兼ねて飲みに行くんやけども行かへん?」

親友のが寄って来る。そういえばもうすぐサークルの新歓があったっけな。でも今日はどうしてもはずせない用事がある。てゆーか、下見はおまけやろ、とか心の中で突っ込んでみる。

「ごめん、今日は用事あんねん」
「なぁに、彼氏とデート?」

私がそう断れば彼女はにやりと音が付きそうなほどの笑みを浮かべてこちらを見て問い返してくる。
約束はしてないからデートではない。だから「そんなんちゃうよ」と返せば「もうこれだから男持ちはー」と茶化してくる。……やって男居るのに、もう。

「せやからちゃうねんってばぁ!」
「まぁ楽しんでおいでや」

こっちの意見を全く聞かずはひらひらと手を振りながら元の場所に戻って行く。

「……のアホ」

そう呟いて、ふと時計を見るとそろそろ出なければいけない時間だったので慌ててかばんを掴んで教室を出る。
電車に乗って彼の通うキャンパスへと向かう。驚かせたくて彼には何も告げていない。……上手くいくといいんやけど、
キャンパスの最寄り駅まで辿り着くと不意に声がかかる。

「あれ、ちゃんやないの」
「ほんまや。久しぶりやなぁ」
「小春ちゃんにユウジ?!わぁー、久しぶりやん!」

振り返って声の主を確認すれば中学時代の旧友の姿がそこにあった。2週間前にこれもまた中学時代の後輩の誕生日会ということで会ったばかりだから実際には久しぶりではないのだが、高校まで毎日のように顔を付き合わせていたメンバーだから数日でも間が空くと久しぶりに感じてしまう。

「こんなとこでどないしたん?」
「もしかしてちゃんも蔵リンのとこ行こうとしてたん?」
「"も"って……え、二人も?」

小春ちゃんの言葉に驚いた私は彼らをまじまじと見る。

「まぁな」
「彼、今日誕生日やしねぇ」
「ほんとすっかり恒例行事になったねぇー」

中学時代から誕生日は全員で祝う習慣があって、大学に上がってもそれは続いているのだから驚きだ。
どこか寂しそうに「全員で祝うんは難しなったけどな」と言うユウジに小春ちゃんは仕方なそうに肩を竦める。

「しゃあないわ、みんな進路違うんやし。……それよりちゃん」
「なぁに?」
「蔵リンのとこ行くんやったら一緒に行かへん?」
「ええの?」
「華がなくて困ってたんよぉ、ちょうどよかったわ」
「こ、こ、小春ぅ〜〜」
「触んなや、一氏!」

変わらないラブルスのやり取りに懐かしい気分になる。その光景を見てくすりと笑って「ふふ、ほな一緒に行こうか」と言って二人と共にキャンパスまでの道を歩く。
時に変わらない絶妙な漫才に笑いながら他愛もない会話を楽しんでいるとふと一つの疑問がよぎる。

「……そういえば謙也や銀さんとか他のメンバーはどうしたん?」

大学へ進み、いくら全員揃って会いに行くのが難しくなったとはいえ授業も始まって間もないこの時期であれば同じ場所に全員が行くのはそう難しいことではない。距離で言えば大体変わらないのだから。

「謙也くんは講義あるらしいからあとで合流するって言うてたわ」
「あとのメンツはもう行ってるんちゃう?」
「謙也は相変わらず忙しそうやねー」
「まぁ、謙也らしいんちゃう?」
「せやねー。……ん、あの人だかり何やろ。まさか私好みのイケメンくんかしら?ロックオン!」
「浮気かっ、死なすど!」

小春ちゃんが言う方に視線を向ければ確かに女の子達が数十人ほど何かに群がっているのが見える。何かと思い少し近付いてみれば女子特有の黄色い声での会話が聞こえてくる。

『なぁ、白石くん。今日誕生日なんやって?』
『え、そうなん?じゃあさ、今日飲みに行こうよ!』
『いやいや、私達と飲みに行かへん?もちろん奢るしー』
『私白石くんとお友達になりたいんよー!』

女の子達が囲んでいたのはどうやら中学時代の旧友であったようだ。

「あらら、囲まれてるん蔵リンやったんや」
「相変わらず無駄にモテるやっちゃなぁ」
「……」

小春ちゃんもユウジも彼に気付いたようでそれぞれ言葉を並べた。
……ほんま相変わらずようモテる男やわ。その光景を黙って見てられなくなった私は踵を返す。

「ちょっ、どこ行くねん!?」

ユウジが慌てて声をかけてくれるが「ごめん、用事思い出したから先帰るわ」と言ってその場に二人を残して駆け出す、「あ、ちょっとちゃん!」という小春ちゃんの制止も無視して。


「はぁ……私何やってんねやろ」

彼の下宿先であるアパートの一室、そのドアノブの所に持っていた紙袋を引っ掛けて自己嫌悪。
あんなの付き合う前からよくあったことなのに、今日はどうしても見るに見かねた自分が恨めしい。
ふう、と一つ溜息を付くと背後から声がかかる。

「なに可愛いことしてくれとんの、
「く、蔵!?」

振り返ればさっきまで囲まれていた張本人がいた。
よく見れば走ってきたのか少し呼吸が乱れているのがわかる。

「やっと追いついた。自分走るん速いわ」
「元陸上部エースやもん」
「ほんで?」

大きく深呼吸をした後で蔵はそう言葉を発した。それと同時に片腕を握られる。

「、え?」
「元陸上部エースのチャンは俺に何か用があってキャンパスまで来たんとちゃうの?」

鎌をかけるように発せられたその言葉に驚いて目を見張る。

「気付いてたん?」
「一応、な。ちゅーか、俺がに気付かんわけないやろ」
「……」

あんなに囲まれて前もほとんど見えてなかっただろうに。……ほんまに侮れないわぁ。
はぁ、と溜息を零した蔵は腕から手を離し、その両手で私の頬を挟み顔を近付けてくる。

「俺が逆ナン嫌いなこともしか見てへんことも知っとるやろ?」
「前者は知ってるけど、後者は知らん」

その距離の近さと気まずさに思わず視線を逸らす。

「アホ。ずっとしか見てへんって」
「……やって、蔵、昔からモテるんやもん。そんなんわかるわけないやん」
「今も昔もずっとしか見てへん。これから先やってしか見ぃひん」
「……蔵、」
「せやから、俺とずっと一緒に居って欲しいねん」
「当たり前やん。蔵の隣以外に私の居場所なんてないで」

逸らしていた視線を元に戻すように合わせればぎゅっとその腕の中に引き寄せられ唇にやわらかなものが触れる。

「愛してるで、
「私も愛してるよ。……蔵、」
「ん?」
「誕生日おめでとう。……本当に本当に生まれてきてくれてありがとう」
「おおきに」

Alles Gute zum Geburtstag!

'10/04/14