長いようであっという間だった最後の夏が終わり、新学期を迎えてから数日。
ようやく落ち着きを取り戻した週明けの朝の教室でいつものように謙也が俺の一つ前の席に腰かけ、くだらない話に花を咲かせていたときだった。

「二人とも、おはよ」

頭上からかけられた声に謙也と二人弾かれたように顔を上げれば、そこには見慣れたはずの顔と〈違和感〉。

「おー!おはようさん!何や、自分えらいバッサリいったなー」

謙也の声に、は「せやねん!めっちゃ軽なった!ってか、ケンヤそれ色上げたやろー?」とケラケラ笑って、俺の一つ前の机に荷物を置いた。彼女が笑うのに合わせて短く切り揃えられた髪がふわりと揺れる。

「オサムちゃん何も言わんかったからセーフやろー?」
「あとで絶対呼び出しくらうに100円!」
「はっ?!嘘やん?!」
「いやいや、絶対その色はアウトやってー!なぁ、白石!……白石?」

やいのやいの騒いでいたはずの二人はいつの間にか不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。その光景に俺は頬杖をついたままの顔を上げた。

「……何や、二人してこっち見て」
「そらこっちの台詞やで。難しい顔してどないしたん」

短くなった髪を耳にかけ、いやに心配そうに聞いてくる彼女にどくりと心臓が音を立てる。

「あー……いや、その、何や……失恋でもしたんか、と思ってな」

その髪、と歯切れ悪く答えて目線をそちらにやれば大きな目がキョトンと見開かれた。そのすぐあと、まるで弾けるように笑い出すにこっちが目を丸くして驚くのだった。

「っ、あはは!もー!白石ってば、何言ってんのー!そんなわけないやん!」
「せやせや!こいつに限ってそんな〈お約束〉なんてないっちゅー話や!」
「……ケンヤ、それはうちに失礼や!」

彼女はころころと表情を変えながら、まだ自身の席に座ったままの謙也の頭を叩いた。

「へいへい、それは悪うございました」

そう言って渋々立ち上がる謙也は、ふらりとどこかへと行ってしまう。

「あ、おい。謙也、どこ行くねん!」
「なぁ、白石」
俺の言葉に被せるように彼女の声が小さく重なった。
ふわりと女子らしい甘やかな香りが近づく。


「白石は、髪短い子嫌い?……あと、〈これ〉似合ってない?」


至近距離、ほんの数センチ下から覗き込まれて、ごくりと喉が鳴る。

「いや、それお前によう似おうとるし……髪の短い子も嫌いちゃうで」
「ん、おおきに」

俺の言葉に満足したのか、はそれだけ言うとあっさり前を向いて荷物を取り出していた。
頼むからはよ帰ってこい謙也、そう願いながら俺は微かに熱くなった顔を伏せた。
その男、純情につき

'18/09