「相変わらずおモテになりますねー」
「……お前さんかてそんな変わらん」
「流石に負けるわよ」
「否定せんとこがまた怖いのう」
「"今更"、……周知の事実でしょ」
「そうじゃな。……つーか、。お前さん何でここに居る」

放課後の教室で毎年恒例……にはしたくないがやはり恒例と化してしまった仕分け作業をしていると既に部活に行っていると思っていたが厭味たっぷりに声をかけてきた。今日はやけに厭味な言い方じゃな、という言葉は飲み込んでここに居る理由を問う。

「んー、何でだと思う?」
「大方参謀辺りに言われて来たっちゅうところか」
「せーかい。もっと言うと幸村命令」
「今日くらい休みでもええと思うんじゃが、」
「無理でしょ。あの絶対王政――いや、恐怖政治の中じゃどう考えても不可能よ」
「それもそうじゃな。……そろそろ行かんと鉄拳制裁食らう羽目になりそうじゃ」
「巻き添え食らうのだけは御免だわ。……っと、そのプレゼントの山どうするつもり?」

苦笑を浮かべながら立ち上がる俺には目の前に並んだ封さえ出来ないほど山になったプレゼントの入ったダンボールの列に目をやって呆れ混じりでそう問いかけてくる。お前さんかてそんな変わらん量のダンボール持っておったくせに。

「食いもんは全部丸井にやる、あとは使えるもんだけ持って帰るつもりじゃ。お前さんは?」
「食べ物関係は親しい子から貰った分を除いて丸井と赤也に渡してきた。あとは雅治と同じ感じ。……あ、」
「どうした?」
「このグリップテープ、」
「この前赤也が欲しがってた奴じゃのう」
「人気あるよね、これ。……高いけど」
「あぁ。……よく知っちょるな」
が欲しがってたから」
「なるほど。……そういやお前さん、プレゼントの山どうしたんじゃ?」
「さっきまでと仕分けしてて、親に連絡して取りに来てもらったわ」
「それで部活行った割にまだ制服のままなんか」
「仕方ないじゃない、遅れて顔出したら着替える間もなく柳と幸村に『仁王連れて来い』って言われたんだもん。……雅治はそのダンボールどうするの?」
「そうじゃな……今の時間じゃったら姉貴も居るじゃろうから電話して取りに来てもらうとするかのう」
「そう。じゃあ、待ってるわ」
「すまんの」

俺は彼女にそう断りを入れるとポケットから携帯を取り出し、いくつかのキーを押して電話帳から姉貴のメモリーを探し出し電話をかける。はそんな俺の様子を見ながら傍にあった机に座る。

「俺じゃ。……あぁ、取りに来て欲しいんじゃが、……わかっちょる。あぁ、頼む」
「話まとまった?」
「あぁ」
「そう、それはよかった。……さ、そろそろ行かなきゃ」

はそう言って机から降りて俺を急かす。
そんな急かさんでもお前さんは真田の鉄拳制裁食わんで済むじゃろ、なんて思いながらの腕を引いて声をかける。

「……のう、
「なに?」
「まだお前さんから貰ってないんじゃが、」
「あら、それを言うなら私もまだ雅治から貰ってないわ」

"駆け引き"の始まりと言わんばかりの雰囲気。"駆け引き"は俺の十八番じゃ。
俺はいつものにやり顔、も不敵な笑みを覗かせている。

『ブレザーのポケット見てよ(みんしゃい)』
「……、え」
「……まさか、」

重なったお互いの声にさすがの俺も驚いた。何というか嫌な予感がするのう。も同じことを考えたのか顔を引き攣らせてこちらを見ている。ブレザーの両ポケットに手を入れれば片方にカサリと袋の感触がして、引っ張り出してみれば見覚えのある包装紙。視線を彼女の手に移せばそこにも同じような包装紙の袋。

「……ねぇ、」
「ん?」
「私の推測が間違えなければ"コレ"、昼休みのミーティングの時に入れた?」
「やっぱりか」
「はぁ……。中身も開ける必要がなさそうだわ」
「そのようじゃのう。……しかし、ここまで被るとは思わんかったぜよ」
「それは私もよ」

以心伝心――いや、こんな時に発揮せんでええ。俺は溜息を付きながら腕を引いて彼女を自分の胸に収める。色素の薄い髪の間から覗く白い首筋に噛み付くように唇を寄せれば甘い声を上げる。

「あ、ぅ。も、早く行かなきゃ怒られる」
「今日くらい大目に見てくれるじゃろ。……じゃけぇ、もう少しこのまま」
「……馬鹿」
「何とでも言いんしゃい」
「雅治、」
「……ん?」
「生まれてきてくれて、ありがとう」

人の生涯の半分もまだ生きちょらんが、これほど嬉しいと思う誕生日はこれが初めてじゃ。
柄にもなく自然と頬が緩んでいくのが自分でもわかる。それを隠すように顔を埋めたの首筋にもう一度噛み付いて痕を残し、それを舐め上げる。顔を上げれば誘うように揺れる瞳が俺を見上げていた。

「……愛しとうよ、

Bon Anniversaire!

『……お前さんこれ以上"駆け引き上手"にならんでよか』
『何で?好きでしょ、"駆け引き上手な女"』
『俺の詐欺(ペテン)が意味なくなるけぇ』
『あら、それは褒められてる?』
『そうでなかったら言わん』
『考えておくわ……と、でも言っておきましょうか』

色違いのネックレスがお互いの首元で揺れるのはそう遠くなかった。



'09/12/04