それは例えば、朝一番の部室――。
邪魔する者のいないロッカールーム。似つかわしくない吐息だけが響く。首を振って逃げようとすれば、ドンと鈍い音がして、不健康そうな、それでいて筋肉のついた腕に囲われた。くっついては離れてを繰り返され、目の前に落ちてくる銀色に視界を奪われる。ただ、その甘さに溺れるしかなかった。

それは例えば、授業中の屋上――。
晴天の下、運動場から聞こえる声が不道徳を煽る。フェンスに凭れた頭が痛い。乱れたスカートの間には彼の足。熱を孕んだ体に掻き抱かれ、身動きも取れない。息をつく暇も与えられない"それ"は凶器にさえ思えた。甘くて、苦しくて視界を埋める〈白〉を縋るように握った。

それは例えば、放課後の帰路――。
美味しそうな香り漂うオレンジ色に輝いた住宅街、並んで歩く2つの影法師。隣から伸びてきた腕が後頭部を捉えたと思ったら、一定距離を保っていたその影が一瞬重なった。15cm上を見上げれば夕陽に照らされた銀色が眩しい。口角を上げ、不敵な笑みを浮かべた彼から香る微かな制汗剤の香りに、唇に残った仄かな甘さに頭がくらくらする。

「何じゃ、。物欲しそうな顔して」
「……そんな顔してない」
「嘘はいかんのう。全部お見通しぜよ」
「……雅治の所為なのに、」
「褒め言葉じゃな。まぁ、心配せんでも"続き"は夜じゃ」
それは例えば、キミと――――。
'16/03