風呂上がりのベランダ。夏特有の生温い風が火照った肌に触れた。
何となしに柵にもたれかかって、向いにある隣家を見る。周りと同じように暗く染まっていた部屋が急に色を取り戻す。それに遅れて窓が開く。慌てるように背を向けた。嗚呼しまった、部屋に引っ込んでしまえばよかった。けれど、時既に遅し。私は気まずさから縮こまるだけだった。

「何じゃ、まだ怒ってるんか」

背中越しに聞こえた音は丸く優しいもので、彼ももう怒ってないであろうことが窺えた。
きっかけは何だったか。それすら思い出せないほど、些細でくだらないケンカだった。それでもお互いどうしても譲れなくて、結果この歳にしてなかなか長い冷戦を繰り広げた。おかげで丸井には大爆笑される始末。
今だって本当はもう怒ってなんかないのに、こうしてそっぽを向いているのはただの意地。

生温い風が黙ったままの二人の間をすり抜けた。

「……
「……」


低い、甘ったるさを含んだ雅治の声と共に背中にのしかかる重み。ベランダの柵越しに背中合わせになったのだろう。後頭部に触れるごつりとした感覚、迷子の子供みたいに不意に泣きたくなった。

「……悪かった」

ぽつりと呟かれた謝罪。お互いに意地の張り合いに疲れたのだと気付いて私も小さく「私も……ごめんね、雅治」と呟いた。

吐き出せた意地っ張りと背中に触れた熱に私の心は晴々していた。
意地っ張りアイ・ラブ・ユー

'18/09