毎日毎日同じ時間に私の携帯は同じイルミネーションで彩られる。送信者も同じなら本文も全く一緒。


07/10 14:30
From:仁王 雅治
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屋上に来んしゃい。

――End――


はぁ……。アイツは全く何を考えているのだろう。大体今は授業中だ。 サボるのは勝手だけどそれに私を巻き込むのはいい加減やめて欲しい。
でもこのメールが来ることをどこか期待しそれが嬉しく感じてしまう自分が情けなく感じてならない。
大きな溜息を一つ付くと隣の席の男子にこそっと話しかける。

「ブン太」
、どうかしたかー?」
「あとのノート頼んだ」
「毎日ご苦労さん。……ノートはわかったからさっさと行けよ。じゃないとアイツ拗ねるぞ?」
「ん。ありがと、ブン太」
「おう。まかせとけ!」

彼はそう言うといつもの笑顔で笑う。それを見て私もはにかんで席を立ち上がる。

、どうかしたか?」
「センセー、仁王くんのとこ行ってきます」
「おー、頼んだぞ」

先生はそんな私を軽く流すとまた授業をし始める。教室の他の生徒も何も言わずに黙々と授業を受ける。
ある意味ですごく恵まれた環境だと思う一方ですごく不気味だと思う。
だってクラス一……いや、学校内でもかなりモテる男子の元に行くのに誰一人として文句言わないんだよ? それっておかしくない?
まぁアイツだからかもしれないけど。
そんな事を考えている間に私は屋上まで来ていた。重たい扉を開けた先に見えたのは私をメールで呼び出した張本人。
呑気に天なんて仰いじゃって……。本当にいい御身分ね、なって言ってやりたいくらい。

「……雅治」
「遅かったのう、
「これでも急いで来たのよー?……それよりアンタ、私を呼び出すのもいい加減にしてよねー。この時間の単位落としたらどうしてくれんのよー」
「心配せんでもよか。単位は落とさないように時間見計らってメールしてるからのう」

怒り口調の私に雅治はクッと喉を鳴らして笑う。
こういう時の彼に何を言っても無駄なのは長年の知恵だ。私は仕方なく彼の隣に腰を下ろした。

「アンタねぇ……」
「それにお前さんだって嫌じゃなかろ?本気で嫌じゃと思うとったらこげんとこまで来んよ」
「バカ、何言ってんのよ。私は雅治の単位の心配して来てあげてるだけよ」
「ほぉー、それは初耳やのう。でも。お前さん一度も俺を教室へ連れ戻したことないじゃろ?」
「それはっ……アンタが行かないだけじゃない」
「俺一度もの口から『教室戻ろう』なんて台詞聞いたことないんじゃけど」
「……っ」

確信めいたその発言に私は何も言えなかった。れっきとした“事実”だったから……。
私が顔を歪ませて悩んでいると彼はニヤっと笑い私の耳元で囁いた。

「本当は呼び出されるん嬉しいんじゃろ?」
「……バカっ!勝手に言ってろ!」

そう言われて私は思わず顔を背けた。そのすぐ後雅治は甘えるかのように私の肩に頭を乗せて来る。

「何かの顔見たらホッとして眠くなったわ」
「はっ?」
「ちょっとだけ寝かせてくれ……」
「え、ちょっ、授業終わるまであと15分なんだけど」
「15分もあったら充分足りるけ、しばらくこのまま……」

雅治は言葉を言い終える前に眠ってしまったようだ。そんな彼に私は溜息を一つ付いてあどけなさの残る無邪気な顔で眠る彼の髪をそっと撫でる。

「相変わらず自分勝手なんだから……」

私はそっと頭を彼に預けた。


『おーい!!仁王!部活始まっから迎えに来てやったぜ!ジャッカルが!』
『俺かよ!……って、二人して昼寝してんのか』


'09/03