Hikaru Zaizen #01
「なぁ、光。ちゅーしよ」
「はぁ?!そんなん兄貴としぃや。……それとも何なん、欲求不満なん?」
「初恋相手とちゅーしてみたない?」
「あほ。初恋なんてもう何年も前の話やろ。何が楽しくて子持ち主婦とちゅーせなあかんの」
「えー。つまらんのー」
さんはそう言うとまるで子供みたいに唇を尖らせて、足をバタつかせてみせた。
財前――旧姓・は兄貴の嫁さんだ。つまり、俺の義理の姉。そして驚くことに初恋の人でもある。一回りも歳上の兄貴の嫁……叶うわけもない初恋だった。結婚して以来、この家に同居している彼女はたまにこうして俺を揶揄う。その当時の自分はもっと純粋で分かりやすかったらしい。
まだむくれたままの彼女に溜息を吐いた。
「もうええ歳なんやし、それくらいでむくれんとってください」
「あ、光ひどーい!私まだ26やのに!」
「俺からしたら、十分ええ歳や」
部屋に戻ろうと立ち上がり放った俺の言葉にさらに膨れっ面を浮かべる彼女。その無防備な額に何度目かわからない溜息を吐き出して、そっと唇を落とした。
「……これで充分やろ、〈姉さん〉」
「……光のあほ」
あほはアンタや、さん。
――額へのキスは、"親愛"。