Kiss Me...?

01. eternal triangle

『おっきくなったら、ふたりのおよめさんになりたいなぁー』

『おれがおまえのことまもってやる』
『いつかそのゆめ、かなえちゃるよ』



あの頃、私は誰かの〈お姫様〉になることを夢見ていた――――。




ふと目が覚めると見慣れた、しかし自室ではない天井が視界に飛び込んでくる。ごろん、と寝返りを打つと、まだ温かいシーツにちょっとした安堵感を覚えた。遠くの方からザーザーと水音が聞こえるので、どうやらシャワーを浴びているようだ。徐々に覚醒してくる頭が何も纏っていない自分を認識して、床に無造作に散らばった服を集めて着替えようとするも下着はもはやその機能をなさないほど昨晩の名残りを明確に示していた。小さく溜息を吐き出して、仕方なく立ち上がると、いつの間にかこの部屋のクローゼットの一角を占拠するようになった服を選ぶことにした。 全て着替え終えると、シャワーを浴びていたこの部屋の主が戻ってくる。腰にバスタオル1枚を巻き、濡れたままの髪をガシガシと拭いている――たったそれだけなのに漂う色香にあてられる。細身なのに程よく筋肉がついたその無駄のない身体に思わずドクンと心臓が跳ねる。

「ようやくお目覚めかの。気分はどうじゃ」
「誰かさんの所為で最悪よ」
「それだけ悪態つけりゃ十分じゃな」

くく、と喉を鳴らして笑う彼が面白くなくてふくれっ面をしてみるけれど、まるで無意味。それどころか顎を掴んで、それは濃厚な口付けをしてくるんだからさらに面白くない。湿ったままの彼の前髪が顔にかかって、ひんやりと顔を濡らしていく水滴にぞわりと身震いする。頬を伝って、首筋に落ちたその雫を彼の舌が掬う。背中がぞくぞくする感覚――朝からとんでもない責め苦だ。やめてくれとその肩を押せば、存外簡単に離れたその体にぱちくりと目を瞬かせる。

「なんじゃ、もっと濃厚な朝をご所望かのう?」
「ばかっ!」
「残念ながらそろそろ支度せんと遅刻じゃ」

そう言って彼はクローゼットへ向かって、服を選びだす。彼の悪戯によって熱をもった体はそう簡単には冷めなさそうだ。意識しないように部屋のローテーブルに置きっぱなしになっていた携帯を見ると1件のメッセージ通知。送信者は海外を飛び回っている幼馴染。『次の土曜に帰国する。18時にホテルで』とだけ書かれたシンプルなもの。それが何を言わんとしているかなんて、十数年来の付き合いでわかってしまう。了解、と短く返して画面を閉じる。

、」
「なぁに?」

あらかた用意の終わった彼から不意に名前を呼ばれる。少しだけ甘ったるさを含んだその呼ばれ方が好き。私だけの秘密。

「お前さん、今度の立海の集まりどうするんじゃ?」
「……それいつだっけ?」
「次の日曜」
「その前の日に〈海外飛び回ってる幼馴染〉が帰ってくるからちょっと遅れるかも」
「あー、跡部か」
「そ。でもちゃんと行くからそう返信よろしくね、雅治」
「プリッ」

変な口癖が了承の意を示していた。それから雅治の髪を乾かしていると遅刻ギリギリの時間で二人揃って慌てて家を飛び出すのだった。



「おー、ようやく来たなー」

講義室の一番後ろの席に座ると隣には見知った顔。「おはよ」と小さく返せば、「昨日はどっちに泊まったの?」あけすけなく聞いてくる親友・に思わず咳き込む。

「な、なにそれ?!」
「いや、だってが遅刻ぎりぎりの日って前日どっちかと"お泊り"したときだもん!」
「なに、その変な統計……」
「で、どっちの幼馴染?」

ニタニタした顔を隠しもせずに追及してくる彼女に仕方ないと深い溜息を溢し、「銀髪」とだけ答えた。

「そうかー仁王かぁー。、あんた相変わらず愛されてんねぇー」
「別にただの幼馴染だよ」
「ただの幼馴染で、関係持ってるなんて聞いたら何人が卒倒するかな?」
「やめてよ、殺される」
「冗談よ」

の冗談っぽくない冗談に思わず顔を顰める。すると、教授が入って来て出席を取り出した。



講義中、マナーモードにしてあった携帯が震えた。

『ピアス忘れちょったから今日の夜取りに来んしゃい』

title by 確かに恋だった