Masaharu Nioh #04


それは例えば、夜のベランダ――。
風呂上がりの濡れた髪もそのままにベランダに立つのはもう日課になっていた。髪をガシガシと拭きながら、隣家へと続く柵を乗り越える。お互いの行き来の為に鍵をかけていない窓を開ければ、同じく風呂上りの部屋主。驚いた顔で此方を凝視している。

「急にどうしたの」
「〈夜這い〉じゃ」
「〜〜っ、バカじゃないの?!」

にやり、と口角を上げて告げれば、見る見る真っ赤になった顔が叫ぶ。逃げようとする身体を追えば、あっという間に行き止まり。ベッドの淵に手を付いて、囲ってしまえばこっちの優勢は決まったも同然だった。それでも逃げようともがく彼女の頭にタオルを被せる。視界を奪われてわたわたする彼女の唇に下から吸いつく。一瞬、触れただけ――ちゅっ、とリップノイズを立てるとピクリと線の細い身体が揺れた。タオルを取って自分の肩にかけなおす。俯いたままの彼女の頬は依然、真っ赤だった。

「えらく大人しいのう」 「だって、……」
「"物足りない"んじゃろ?」

花の香りがするその唇に甘い責め苦。仕掛けられた方も仕掛けた方も溺れる。


それは例えば、明け方のベッド――。
目を覚ませば、あどけない表情で眠る彼女。シーツの上に曝け出された白い肌が昨夜をまざまざと思い出させる。額にかかった髪をそっと払い、口付ける。鼻の頭、頬、唇――。

「……、好きじゃ」

甘くて、苦い、その気持ち。



それは例えば、キスするエトセトラ。