Masaharu Nioh #03


目覚ましをかけない休日の朝。
ゆっくりと伸びをしてカーテンを開ければ、太陽は高く昇り、その眩しい光に思わず目を細める。
朝に弱い彼にいつもの仕返しをしたくなって、彼の部屋と繋がるベランダへ出てみるとやはりカーテンは閉ざされており、これ幸いと私はベランダの柵をひょいと跨いで彼の部屋にあるベランダへと降り立つ。幼い頃から変わらず鍵の掛かってない窓に手をかけて彼の部屋に入ることは容易かった。薄暗い部屋に彼の寝息――絶好の機会にほくそ笑む。そろり、と彼が眠るベッドへと歩を進めれば普段の鋭さはどこへやら……歳相応の寝顔が覗いた。その顔に思わず口元を緩めたが、仕返しの為に顔を引き締めて、布団に隠れた腹部目がけてベッドへ飛び乗った。
突然の衝撃に「ぐえっ、」と蛙の潰れたような声を出して彼は目を覚ました。それに満足して私は満面の笑みを浮かべながら「おはよ、雅治」と彼に馬乗り状態で言う。

「……お前さん。休日のこんな朝早くから何じゃ……」
「いつもの仕返し」

起き抜けで気怠そうな彼に私は口元を緩めずにはいられなかった。顔にかかった髪をくしゃり、と掻き揚げるその仕草をじっと見つめると彼と目が合う。いつもは見上げることしかないから見下ろすのは何だか気分がいい。「重いからどいてくれんかのう?」と掠れた声が響く。それに「やーだ」と返せば困った顔の彼。――あ、その顔好き。

「お前さんがどいてくれんと俺なんもできんのじゃけど」
「あら、たまにはこいうのも悪くないでしょ?」
「もうちょい下に乗っとったら悪かなか」
「、っ!!えっち!!!」

にやりとセクハラまがいの発言にぽかり、とその胸板を叩く。彼はそれを意にも介さず、その手を握るとぐっと引っ張る。私の身体は傾き、彼との距離はわずか数センチ足らずとなった――口を動かせば触れる距離。甘い雰囲気まかせに「まさはる、おはようのちゅーは?」と問えば、ちゅっというリップ音と一瞬、触れるだけのキス。

「もういっかい」
「こっからは有料じゃ」

そんなこと言う唇は塞いじゃえ。
ちゅ、ちゅっと何度も触れて、離れて。

目覚ましをかけない休日の朝。
君ともう一度夢の世界へ。


おはようの代わりに、

(きみにあまいわな)


title by 確かに恋だった