Akaya Kirihara #01


『切原くんのことが好きです』
「わりぃ、俺好きな人いるから」
『……そっか。急に呼び出したりしてごめんね』

そう言って目の前にいた彼女は立ち去っていった。

「あーかやっ!」

教室へ戻ろうと足を動かそうとした瞬間、聞き慣れた声色が耳に届いてそれから背中に重みを感じた。ふと鼻を掠める甘いその香りが俺に彼女が誰なのかを決定させる。まず俺にこんなことしてくる女なんて滅多にいねぇから判断しやすい。

「うわっ?!……先輩、いきなり何っスか!」
「折角の告白断るなんてアンタも随分と偉くなったのねぇ。……それにしてもさっきの子、赤也には勿体無いくらい可愛かったなー」

背中にあった重みが肩に移る。彼女は俺の肩に腕を乗せ、その上に顎を乗せながら先程この場を後にしたあの女を思い返し、そう言葉を発する。 俺はそれにただ溜息しか出ない。「アンタほんとに可愛い子好きっスよね」と呆れながら返せば「可愛い女の子を愛でるのが私の使命なのっ!」と真剣な声が返ってくる。

「……そんな使命もどうかと思いますけど」
「何か言った?」
「別に何も」

俺はそう言って、いい加減重さに耐えられなくなり彼女を肩の上から退けると嫌そうな表情を浮かべた彼女だが、次の瞬間には何ともないような顔で俺に問いかけてくる。

「で?何で告白断っちゃったの?勿体無いなぁ」
「……好きな人がいるからあの子の気持ちには応えられないだけっスよ」
「じゃあ、その人はさぞかし幸せ者なんでしょうね」

俺を見ながら先輩はそう言って笑う。
……なぁ先輩、それ本気で言ってんの?

「先輩、アンタがそれを言うんスか?」
「やだなぁ、そんな怖い顔しないでよ。赤也」
「……先輩!俺、本当にっ、「あーかや」

言葉を遮られて名前を呼ばれたかと思えば、突然目の前に影が出来る。

「、?!」
それが彼女によって作られた影だと気付くより先に自分の唇に彼女のそれが触れていることに気付かされる。驚いて体を離すと真剣な顔持ちでこちらを見つめる彼女がいた。

「アンタの気持ちは嬉しいよ?……でもわかりやすすぎ。もうちょっと駆け引き上手になりなさい?」
「なっ?!」
「それまでは赤也からの告白は受けられない」
「……」
「いい返事期待していいから、ね?」
「俺ぜってぇー諦めねぇっスからっ!」
「はいはい」


雨のち晴れ、恋愛予報

(単純と言われようとも、ただただそれが嬉しかった)