『待って、翼くぅ〜ん!』
『待てるかっ!だぁー!もうこっち寄るな』
『もうっ、つれないわねぇ〜。でもそんなとこもす・て・き!』
ぎゃあぎゃあ騒々しいやり取りが朝も早い時間から危険能力系本部で繰り広げられている。いつも通りといえばいつも通りの光景なのだが、正直朝から見るのは鬱陶しい。翼くんもルイが楽しんでやってることわかってるんだから大人しくしておけばいいのに。まぁ、大人しくしたらしたで次の瞬間には恐ろしい受難が待っているからオススメはしないけど。紅茶のいい香りが漂う部屋で雑誌に目を向けながらそんなことを考えていると、自分で対処しきれなくなったのか翼くんが私に向かって助けを求めてくる。
「ちょっと、鬱陶しい目してんだったら助けてくれてもいいでしょ!」
「嫌よ。今ここで翼くん助けたら私がルイに何かされるもの。……考えるだけでもおぞましいわぁ」
パタン、と雑誌を閉じてテーブルの上に置くとわざとらしい身振りで彼の言葉をかわす。それを見たルイが「もう失礼ねぇー、私がアンタに何かしたことあったかしらぁ?」と相変わらずのオネェ口調で投げかけてくる。
「……毎日のようにセクハラまがいな行為仕掛けてくるくせによく言うわよ」
「ご愁傷様、です」
「アンタもね、翼くん。……ねぇルイ、」
「なによ」
「私と翼くんどっちが好き?」
「翼くんに決まってるでしょう」
「ぅげっ」
「あぁ、うん。そうだよね、聞いた私が馬鹿だった」
真顔で即答してくるルイに、私は己の愚かさに呆れながら溜息を一つ零す。すると、背後から誰かの腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられる。突然のことに驚き、身体がびくりと揺れる。ふわっと鼻を掠めた独特の香りに私を抱きしめているのがルイだとわかる。
「好きなのは翼くんよ?でもね、」
そこまで言ってルイは間を置く。耳元で発せられるその声に不覚にも胸が高鳴る。
「愛してるのはお前だけなんだよ」
「……ルイってさぁ、ずるいよね」
「そりゃ光栄だな」
「褒めてないんですけど、」
「俺にとっては最上級の褒め言葉にしか聞こえねぇけどな」
「あーそうですか」
「ちょっと、アンタが馬鹿なこと聞くから翼くんに逃げられちゃったじゃない!」
「何でそうなるのかなぁ?」
「ほら、ぼさっとしてないで追うわよ!」
「はいはい」
愚かな恋愛模様
(あなたの一番になりたい、なんて言わない)